「いっ、つつ・・・・・・」
「どうした初一っ!?」
「どこからわいて出たんですか・・・、人差し指を少し切っただけです」
 台所で昼食の用意をしているときに、不覚にも指を切ってしまった。指先の切り傷というのは、大して深くないくせにやたらと痛く感じるものだ。
「あー・・・、血が」
「あっ! 初一指から血が出ているっ!」
 人差し指をくわえていると、兄さんが絆創膏を引っ張り出してきた。
「見せてみろ」
「大丈夫ですよ。こんな傷で絆創膏だなんて、もったいない・・・」
 血の味は嫌いだ。口をゆすいで指を洗ったが、まだ止まらない。
「案外深く切ったのかもしれませんね」
「だから早く見せろと言っているだろうっ」
 いつまでも兄さんが台所にいると邪魔なので、貼っておくことにした。
「それじゃあお願いします・・・」
 ガーゼで血を拭った後、意外と器用に絆創膏を貼られた。やっぱり深く切ったようで、すぐに傷の部分が赤く染まってしまった。
「よく使う指を切ってしまいましたね」
 確か心臓より高いころに手をやるんだよな・・・。ってこれじゃあ包丁が使えないか。
「この指は初一指というんだぞ!」
 ・・・は? 俺指? しかし、兄さんが嬉しそうに掴んでいるのは未だに血の止まらない人差し指だ。
「そしてこれが兄さん指」
「ああ、それはあたりですが・・・。中指を兄さん指というのなら、人差し指は母親じゃないんですか?」
「違うぞ! ええと・・・、この大きいのが大きい指=A次が初一指=Aその隣りにいるのが兄さん指=Aそしてこれが指輪をはめる指≠ナ最後が短い指≠セ」
 ・・・兄さん語? なかなか理解できん。
「私と初一以外に家族はいらないからな!」
「・・・左手の薬指は確かに指輪をはめますけど、右手はどうなんですか?」
「・・・・・・無視か」
 左手を高くかざしてみる。俺と兄さんにそうたいした身長差はないが、俺指(?)と兄さん指には歴然とした差がある。・・・まあ、小指を「初一指だー」とか言われなかっただけ良いか。
「ま、俺たちに指輪なんて縁遠いものですからいいですけどね、どうでも」
 しかしそれだと、俺が怪我をしたみたいで嫌だな。いや、確かに指先に怪我はしているのだけれども、こう・・・指の頭だから、首をすぱっ・・・と。
 ・・・やめた。これ以上自分を貶めるのはよそう。
「それじゃあ、とりあえず私が食事を作ってやろう!」
「いいですよ・・・。兄さんが作ったらオムライスかカレーか物体Xかオムライスカレーか物体Xカレーがけかオムライス物体Xぞえになりますから」
 結局、兄さんのこだわりすぎた一品、炭化した何かを消化した。誰か助けてくれ。





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