セーター

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 兄さんは白いセーターがよく似合う・・・と思う。だが滅多に着ない、というか着させない。何をしても必ず汚すからだ。外出をすれば何故か泥がついている。食事をすれば必ずこぼす。部屋にいればほぼ100%インクをはねて黒く汚してしまう。そんなもの洗濯するのは大変だし、兄さんにいたってはそういうことに関して腹が立つほど無頓着で、セーターを他のものと一緒に普通に洗濯機で洗おうとする。だからそんなめんどうなものはあまり買わせないようにしている。それでも、兄さんも白いセーターが好きらしく、ちょくちょく着ては俺の血管をちぎらせているのだ。
「やい初一、出かけるぞっ!」
「〝やい〟とは何ですか、〝やい〟とはっ。あっ、また白い服を・・・。あのですねえ」
「ほら行くぞ、そら行くぞっ」
「ああもうっ! ちょって待ってくださいってば!」

「休みの日のこの時間帯のこの場所は驚くほど嫌いなんですよ。嫌がらせですか」
「おお! お子たちっ! 今日は弟を連れてきたぞっ!」
 しかも無視だ・・・。こんなうるさいガキ共と同じ時間を共有しなければならないとは屈辱だ。兄さんは完璧に俺を忘れたらしく、子供たちとたわむれだした。休日の昼前は、やたらとガキがむらがってるんだよなあ・・・ここは。
 ガキと兄さん・・・、わけることもないか。ガキ共から離れて座っていると、ガキの内の一人が走り寄ってきた。そして宙に舞い・・・。
「くらえーっ!」
 ・・・何をだ。
「ぐえっ」
 俺を飛び蹴ろうとしてきた子供を避けて立ち上がった。服に芝がついていたので軽く払う。
「兄さん、帰りますよ」
 子供に埋もれている兄さんを見つけ、ため息がもれる。またこんなに汚して・・・。誰が洗うと思ってるんだ。
「どけっ、ガキどもっ」
 兄さんにむらがるガキを放り投げ、兄さんをひっぱり起こす。本当に世話のやける・・・、俺のストレスをためる人だ。
「初一は私を助けに来たのだな!」
 頭突きをされた。
「痛っ・・・、助けに来た人に向かって頭突きですか」
「はーつーかーずー」
 白い・・・少し汚れたセーターに顔を押し付けられた。同じくらいの身長なので俺の体勢はかなり苦しい。
「ちょっ、苦しいんですがっ」
・・・兄さんはまだ、俺のことを小さな子供だと思っているのだろう。だから思いきり抱きついても腕の中にはおさまらずに額同士がヒットするのだ。・・・そういえば、小さい頃によく兄さんにそうしてもらっていた気がする。そんな時、真っ白いセーターの胸は頼もしくあたたかくて、肌ざわりがよかった。
「我が心友よーっ」
「うあ゛っ、やめてくださいっ。俺たちはっ、兄弟でしょうっ!」
 頬をすりよせられて鳥肌ものだったので、とりあえず雲の向こうに送り返した。



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