はあ・・・・・・、変な知り合いしかできないまま初の授業日の朝を迎えてしまった・・・・・・。枕もとに置いた目覚まし時計を見ると五時半だった。この学院では八時からフレデリクと会った礼拝堂でお祈りをして、その後授業を始めるらしい。これからは六時半頃にでも起きれば充分かな。 反対側に身体を倒すとヘンゼルの背中が見えた。まだ暑いからか、薄いシーツのようなものをかけて相変わらず静かに寝ている。どんなに耳を澄ましても全く寝息が聞こえないのはどうなのだろうか。 というか、鳥の鳴き声がすごいな。昨日の朝はあんまり眠れなかったせいか気にならなかったがものすごく鳴いてるぞ。だからこんなに早く目が覚めたのか。山の中だとこんなに違うんだなあ。なんか感動。 さて、と。こんなに早く起きてもやることないな。ここで何か始めてもヘンゼルに迷惑かもしれないし(たぶん起きないけど)、もう一度寝たら絶対に目が覚めなくなる。どうしたものか・・・・・・。 ・・・・・・散歩にでも行くか。 うーん、朝の散歩とはずいぶん洒落てるな、俺。実家にいたときはこんなに早く起きることなんてなかったのになあ。やっぱり環境が変わると生活習慣も変わるのかな。これを機に規則正しい生活が見につくといいんだが。 この学校の制服はまだもらっていないので私服のまま寮の周りを巡回だ。それでもさすがに学校へは私服じゃまずそうなので、後で栄光の若葉高校の学ランに着替えなければ。そのまま若葉高校へ行きたいなあ、あは、あははははは。 しかし、山の空気って本当にうまいな。俺の家の辺りも山があって綺麗だったけど、やっぱり山の中ってのはだいぶ違うもんだ。ここで緑や小鳥たちに囲まれて健康的に過ごす、か。・・・・・・案外悪くないな。 よし、心を入れ替えて素敵ライフを送ろう! 老後は!! 「ああーっ!! 嫌なんだよ今は! 俺の高校生活は若葉高校で送りたかったんだああああっ!!」 うおおおおっ、朝だとか寮の目の前だとか知ったことか! 俺は叫ぶぞ! 叫び声が木霊して戻ってくるのがなんかまた悲しいけど!! 「うおおおおおぉぉぉぉ・・・・・・、ぉ・・・・・・」 ・・・・・・やめよう! 窓から顔出してる人と目が合った! やっぱり朝は静かに散歩を楽しまないとね! 寮から離れて木々の中に入ってみると、爪先が何かを蹴った。下を向くとまだ葉っぱが落ちる季節ではないのに、足元にはもう小さな木の実がいくつか散らばっていた。 「お、どんぐりだ」 小さい頃にはもりもり拾ったなあ、小さい栗とかも。特に帽子をかぶったどんぐりが好きで好きで仕方がなかった。 まだ時期が早いせいか小さくて緑のやつが多いけど、中には綺麗なのもあるな。ふむふむ・・・・・・。 拾うか。 よしよし、だいぶポケットがいっぱいになってきたぞ。ちゃんと虫食いのないつやっつやのやつを選んでいるから大丈夫だ。昔はよくそのままポケットに入れっぱなしにして新たな生命を発生させたものだなあ。 腕時計を見ると、そろそろ七時になりそうだった。驚いた、こんなことで一時間以上もつぶしていたなんて・・・・・・。 暇だな、俺。 ・・・・・・なんか空しくなってきた。ふと我に返る時ってあるよね。今がまさにそれだあああっ! 「ごはん食べに行こうかっ!」 大きな声を出して自分を励ます。ポケットがもっこもこだけどこのまま食堂に行くか。一度部屋に戻るのもめんどうだし、ヘンゼルも声かけたってどうせ起きないだろうしな。このどんぐりたちは朝食の後戻ったときにヘンゼルの枕もとにでも置いておくか。 少し土で汚れてしまった手を払いながら寮のほうを振り返ると生徒会長と目が合った。 ・・・・・・・・・ん? せいと・・・かい・・・・・・ちょう? 「おぼあああああっ!!」 い、いつの間にっ!? 全く気配を感じなかったのに(それだけどんぐり拾いに夢中だったのかもしれないが)、どこから現れたのかシャルル生徒会長が俺の真後ろに立ってにこにこしているっ・・・・・・! 「ごめんね。驚かせてしまったかな?」 俺が目の前でのけぞって悲鳴を上げたというのに、会長は変わらない笑顔でそう言ってのけた。 この人・・・・・・変人だ・・・・・・! この学校にいたら寿命が縮まりに縮まって早死にしそうだ・・・・・・。 「あ、いえ・・・でかい声出してすみませんでした・・・・・・。あー、あの、いつからそこに・・・・・・?」 「ん? そうだね、三十分は前からいたかな」 暇だなおい! 三十分もただどんぐりを拾う俺の後姿を見てたのか!? いや、呆れはしない! 逆に恐怖だ! 「それで、それを拾ってどうするの?」 どんぐりのことかな? ぱんぱんのポケットから一握り取り出すと、会長は嬉しそうに頷きながらそうっと一粒指でつまんだ。 「食べるの?」 「えええっ!? 食べませんよっ!?」 俺とどんぐりを見比べて楽しそうに何を言うんだこの人はっ!? いや確かにどんぐりも食べられるらしいけど・・・・・・まずこのままじゃ食べないし! なんだろう、俺そんなに野生的な男に見えるのかな!? 「それでは、どうするの?」 う、そんな心底不思議そうに聞かれても。自分でも特に目的があって拾っていたわけじゃないし、なんて言ったらいいかなあ・・・・・・。 「えーと、に、日本の子供はこれでコマを作ったり、首飾りにしたりと大忙しで」 うん。自分でもこの説明はどうかと思ったよ! 「コマ?」 「う、んぁー、でも最近の子供はあんまり外で遊ばないみたいだし、俺の小さい頃とか、もっと昔の話ですけどね。あは、あはは・・・・・・」 会長は俺の説明で納得したのかしないのか、一粒のどんぐりを手のひらで転がしながら観察している。うーん。この人、何考えてるのか全然わからないなあ・・・・・・。 「それはどうやって作るの?」 なんかヘンゼルと話してる気分になってきたな、この質問→解答ループは。 「この、どんぐりの頭につまようじを挿すんです。これがうまく真ん中に挿さないとちゃんと回らなくて・・・・・・」 「つまようじ? それは確か食堂にあったね。ちょうど朝食の時間になったようだし、一緒に行こうか」 そう言って会長は俺の腰に手を回して寮へと歩き出した。俺朝から食堂でどんぐりゴマ作るんかい・・・・・・。 いや違う・・・・・・! 問題は何故腰に手を回しているのか、というところにあった・・・・・・!! 「よお! とっつぁん、おはよう! ・・・・・・っと、あれ、生徒会長?」 食堂で何故か誰も寄り付いてこない真ん中の長テーブルに会長と二人で陣を取り、もくもくとどんぐりのコマを作っているとコンラードとミハイルがやってきた。何故だろう、何日かぶりに人間と会話を交わしたような不思議な気分だ。 「いっちゃんに会長、おはようございます。何をしているのでありますか?」 そしてミハイルはこの状況を受け入れるのが早いな! 俺と会長が一緒にどんぐりゴマ作ってるのっておかしくないか!? 作っている俺が思うんだからおかしいよな! 「さっき彼がこのどんぐりを拾っていてね。コマを作るというから一緒に作っているんだよ」 でもこの会長のやたらと嬉しそうな顔を見ちゃうと投げ出すわけにもいかないんだよなあ・・・・・・。コマ作るのも嫌いなわけでもないし。 「えっ、コマというのは、あのお正月などに回すものでありますか!?」 「なになにっ、それすげえ! 俺も作る!」 とびついてきたよ! みんな今時の子供より良い反応するなあ! おじいちゃん嬉しいよ! しかし本来食事を置くためのテーブルの上には、すでに何十個というようじの突き刺さったどんぐりたちが散乱している。これ以上作っていったいどうするというのか。 だが俺にこのはしゃぐ子供たちの好奇心を遮るようなことができようか。できまいや、できるね! 「あー、まだごはん食ってないんだよ、俺たち。二人もこれからだろ? とりあえずはごはん食べてからにしないか?」 食事を終えれば八時までそう時間はないだろう。そして自然にお流れ・・・という形に持っていこう。 「や、今作る!」 「自分も先に作るであります!」 やる気満々だね! やった! なんかいっそすがすがしい! あはあははははっ!! 「これ、ここにようじを挿せばいいのか?」 「うまく中心に挿さないといけないようだよ。これは私が作ったコマなんだけれど、きちんと挿せていないからうまく回らないんだよ。そして、こっちがアマモトくんの作ったコマだよ」 テーブルの上でくるくると回るどんぐりにコンラードとミハイルが歓声を上げている。どんぐりゴマ作りにそれだけ情熱を傾けられる高校生なんて今時珍しいよ。これはもう国の宝だね。これはもう諦めて付き合えということかな。俺はもう諦めたよ。 「なんか適当に真ん中に挿して、うまく回ったらこっちの勝ちだな。どんぐりなら腐るほどあるから何度も挑戦するといいよ」 まだポケットに隠し持っていたどんぐりを一握りテーブルに出すと、早速二人は熱心に作り始めた。 ・・・・・・見ているだけでも仕方がないか。俺も作ろう。 いやあ、阿呆だね。もう八時まで十五分しかない。俺はこれから部屋に戻って制服に着替えてわりと距離のある礼拝堂まで走らなければならない。当然のように朝食は抜きだ! 会長は準備があると言ってさっさと礼拝堂に行くし、コンラードとミハイルはいつまでもどんぐりゴマを増やし続けるし! 俺はまだ制服も着てないんだぞ!? そろそろ礼拝堂への移動を始めろ、という放送が流れて、やっと二人は我に返ったようだ。製作したコマたちをポケットに詰め込んで一度部屋に戻ると言い残し、颯爽と食堂を出て行った。 俺はテーブルの上に散乱するどんぐりをかき集め、布巾で念入りにテーブルを磨き、食堂を出た。 瞬間、朝礼の開始の合図であろう鐘が鳴り響いた。 もう、俺のお馬鹿さん☆ 最悪だ!! |
Good luck.Thank you! |