「えーすけくーん、一緒にトイレ行こー」 「来んな! お前どうせついてねーだろ! ばか!」 こんなこともあった。そんなついてないと思わせるような女より女顔だった篤士は、髭の美しい紳士になっていた。笑えばたぶん愛想が良い。いや、そこまで求めなくてもいいんだ。せめて目を瞑りでもしてくれればまだましだと思った。 どうしてこうなったのかよくわからないが目の前に田倉社長がいる。ここは俺の勤める会社だ。今日も元気にやってきて俺の課の扉を開ければ、俺のデスクに田倉社長が座っていた。 夢だと思った。田倉社長が凝視している。動けずにいると曇りガラス一枚で仕切られた応接スペースに移動させられた。そして社長と俺の前に湯飲みが置かれ、二人きりになった。でもまあ、この薄いガラス一枚の向こうには俺の日常が広がっている、そう思えば少しは気が楽だ。ちらっと向こうをのぞくと、 誰もいなかった。 やる気なくなっちゃった。 「あ、あのー、社長は今日はどういった用件で・・・・・・」 「別に。近くを通ったから寄っただけだけど」 えー、暇だなおい。社長は俺から目を逸らさずに手さぐりで湯飲みを持ち上げ、淹れたてのお茶を口に入れ、大半を湯飲みに戻した。熱かったらしい。 ああ・・・・・・居心地が悪い。そういや俺、昔から緊張すると漏らすんだよなあ・・・・・・。まあ、加齢と共にトイレに駆け込むことを覚えたが。 「どうかしたのか」 もじもじしているのを悟られたらしい。 ・・・・・・しめた! 今こそ席を外すチャンスだ! 「すみません、ちょっとお手洗いに・・・・・・」 「そういえばえーすけくんは小さかったよね」 「・・・・・・・・・は?」 小さい。またこれは、これは。 「・・・・・・何が、ですか?」 そうして田倉社長は初めて俺の顔から視線を外し、俺の股間を凝視しだした。パワーハラスメントとセクシャルハラスメントが合体して、未だかつてない犯罪の匂いがした。 「え、えー、お、お言葉ですが、私はこれでも馬並を自負しております・・・・・・」 見栄は男の愛嬌だと思う。 「馬・・・・・・? 何が」 上品な社長にはそういった単語は理解できないらしい。 「何って・・・・・・、ち、ちん」 「ああ」 社長は再び俺の顔に視線を戻し、 「早いの?」 生きていく自信がなくなった。 |