日和




 ああ、良い天気だ。今日はなんという散歩日和なのだろうか。それでは寝るか。
「初一! 散歩に行くぞっ!」
「・・・だと思いましたよ」
 もそもそと布団から這い出て、支度を始めた。

「今日は本当に良い天気ですね。暖かくて、とても眠い」
「だめだぞ初一。たまには休日もこんなふうに健康的に過ごさねば!」
「平日であっても兄さんといるだけでストレスメーターが限界値を超えて活火山ですよ、俺は」
 でも本当に、たまにはこんなのも良い。小さい、名前も知らないような花がたくさん咲いている土手を歩いていると、何だか懐かしい気持ちになる。
「童心に返るな!」
「兄さんが童心に返ったら赤ん坊ですよ。・・・いやむしろアメーバ・・・。あ、たんぽぽですよ。ほら」
 もちろんとっくに綿毛になっているが、何であろうとこんな時期にはめずらしい。
「本当だな! ・・・あっ、川に魚がたくさん泳いでいるぞっ!」
 兄さんが川のほうへ下りていくので、俺も続く。少し冷たそうな川には確かにわらわらと小さな魚が泳いでいた。
「子供・・・ですかね」
「かもしれないな」
 草の上に腰をおろし、光に反射して輝く水面を眺めた。
「まだ雪も降っていないが春が待ち遠しいな、初一」
 春はそれほど嫌いでもないので、そうですね、と返した。久しぶりの暖かい日で、本当に眠い・・・。
「・・・兄さん、大変不覚でもあり申し訳ないのですが」
「何だ?」
「肩をかしてもらえませんか? あまりに眠くて・・・」
「おお! 日向ぼっこにお昼寝か! 私の十八番だ。よし、肩でも膝でも使え!」
「肩で充分ありがたいです。それでは失礼して・・・。適当な時間に起こしてください」
 兄さんの肩に頭をのせると、兄さんが自分の頭を俺の頭にのせてきた。同じくらいの背丈なので体制的にかなり無理があるが、それも気にならないほどに眠い。
「俺の頭によだれ垂らさないでくださいよ・・・」

 肌寒さで目が覚め、いつまでも眠り呆けている兄さんをおぶって帰ったことは言うまでもないだろう。




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