あー、腹減った・・・・・・。昨日はヘンゼルの質問責めにあって夕食も食べられなければろくに眠れもしなかったしなあ。あれであいつは腹減らないのか? この学校では休日は自分で食事の用意をしなければならないらしいが、長期休暇中の今は三食出るようなので良かった。転入早々料理するとしても、道具も材料もなんにも無いからなあ。台所の場所も知らないし。まあ明日から新学期だから来週末にはいろいろ揃えておかないといけないけど。 夏休み中の朝食は七時から九時の間の好きな時間に食べればいいらしい。学長先生が食堂は寮の一階にあると言っていたのでうろついていればたどり着けるだろう。・・・・・・ヘンゼルに一緒に来てもらおうと思っていたのに起きなかった。七時に起きて一時間くらい呼んだり揺すったりしたのに全く起きる気配が無かった。しかも微動だにせずに呼吸も静かだから一瞬怖くなる。 ・・・・・・昨日寝たのも遅かったし、最後の夏休みだ。ゆっくり休ませといてやろう。 と思って一人で食堂へ来たのは良かった。よく一人でたどり着いた。偉いんだぜ俺! しかし外国人だらけなんだぜ。 なんか俺、ヘンゼル一人で外国人はクリアしたような気でいたぜ。甘すぎた・・・・・・。 そしてとてつもなくじろじろ見られている。気まずすぎる。は、早く食べて戻ろーっと。 寮の食事ってどんな感じなのかちょっと不安だったが、ここではいくつかの大皿にのせられたおかずを好きにとって食べていいようだ。なんかバイキングみたいで楽しい。量も自分で調整できるし、いいな。 おお、この目玉焼きなんて美味しそうだ。・・・・・・ん? あれ、この目玉焼き・・・・・・、 ぎゃっ! ケチャップがついてる・・・・・・! あっ! 下にほうれん草まで潜んでる! これ微妙に目玉焼きじゃない! いやこれはこれで美味しいんだろうけど・・・・・・、しょうゆのついたものが食べたいんだ俺は! と、とりあえず先にごはんをいただこうかな。 大皿の並べられた長テーブルを見回すと、一番端に普通の家サイズの炊飯器が置いてあった。明らかに不人気だよ、白米。みんな日本に来たんだから白米食べよう、ぜ・・・・・・。寂しいじゃん・・・・・・。 おかずも一通り見てみたが、やっぱり洋食が多い。作っている人も外国の人みたいだ。煮物あるけどチーズとか入ってる・・・・・・、日本人にはあんまり優しくない和洋折衷だ。慣れれば美味しいんだろうか。 まあいいや。今日のところは大人しくごはんと焼きのりとお茶にしよう。そこはかとなく味噌汁が飲みたいが! 今度即席のパックでも買ってこよう・・・・・・。 さて、人の少ない隅の机に座って。 よし! いただきま、 「コンラードっ、こちらミハイル! 白米にのり、日本茶の三種の神器のそろった東洋人男性を発見であります!! 彼が噂の日本人転校生であると思われますっ!!」 ――口から白米が戦線離脱した 「あっ、だ、大丈夫でありますか!?」 布巾で米をかき集めていると、つい先ほどものすごく大きな声で何かを実況していた眼鏡外国人男性が覗き込んできた。俺は大丈夫です、はい。なので安心してその三種の神器がそろった東洋人男性のところへ行ってください、はい。俺は他人なのですよー。・・・・・・米が鼻のほうに来た、驚くほど痛ぇ・・・・・・。 おろおろしている眼鏡外国人男性に背を向けて咳き込んでいると、前方に影が差した。ちょっと顔を上げると、誰かの足が見える。 もう嫌・・・・・・これ以上首が動きません・・・・・・。 「あんた馬鹿ぁ? ですよミハイルぅ。相手は日本人の中の日本人だぜ。まずは握手して自己紹介だろーが」 関わり合いになりたくなーい! 名乗らなくていい! 握手もいらん! いやああああっ、助けて誰かあああっ!! あっ、もうヘンゼルでもいい!! Help! おにいちゃあああんっ!! 「よう、日本人の兄ちゃん!」 ひいい、前に仁王立ちしてる人がいやに爽やかに手を差し出してきたっ。後ろには眼鏡だしまさかのサンドイッチ! どこにも逃げられねえっ!! こ、怖い。無理だ。冷や汗だらだらで下を向いていると、しばらくして差し伸べられていた手が視界から消えた。や、やったのか・・・・・・? これで安心して前方から逃げられる・・・・・・! 尻を浮かせて、いざ敵前逃ぼうごえっ!! 走り出そうと踏み出した俺の咽に、指が突き刺さった。まさか、こんな直接攻撃に出るとは――― 人間、急所に手を入れられたらおしまいだよ。これ以上身動きがとれない。 完敗だ・・・・・・。せめて最後に、勝者の顔を拝んでおくか・・・・・・。 咽に刺さった手で顎を掴まれ、無理に上向かそうとされる。うっすらと笑みすら浮かべて目の前の男性を見上げると、 「オッス! オラ、コンラード・バニョーリ! ヨロシクなっ!」 素敵な笑顔で名乗って俺の頬というかほぼ口の間横というかぎりぎりのところに何か押し当ててきました今のはなんでしょうやけにやわらかくてあたたかかったのでたぶんはんぺんの一種だと思いました顔にはんぺんがついているなんておもしろい外国の方ですねうおおああああ 「ぎゃあああああああっ!!」 「ぅわっ、な、なになにっ?」 「コンラード! 君の挨拶は日本の方には受け入れ難いのであります! 誰彼構わずキスするのはよくないと忠告したはずでありますっ!」 ぎゃー! 信じられん! いきなりキスしてきたぎゃー! ありえん! ぎゃー! 信じられん! うおおおお擦りすぎた頬が火を吹き始めた!! 「でも手ぇ握るよりハグした方が一気に仲良くなれると思うぜー」 「君の意見はどうでもいいのであります! さ、彼に謝って・・・だ、大丈夫でありますかっ!?」 このまま頬の肉が削げ落ちるんじゃないかというところまで擦っていると、眼鏡外国人男性に腕を掴まれてしまった。離してくれ。俺はもう向こうの頬まで貫通しないと気がすまないんだ! 「落ち着いてください! ほっぺたなら自分が代わりに拭くであります!」 後ろから羽交い絞めにされ、さっき口から飛び出したごはん粒たちを集結させた布巾で顔を拭かれた。頬にごはん粒ののぺっとした感触がああああっ!! だがそれがいい!! 全く別のこれまた気持ちの悪い感触によって何かが拭い取られた気がした。少し落ち着きを取り戻して椅子に座り直る。あ、なんか腰抜けちゃった・・・・・・。 「落ち着かれましたか?」 眼鏡の人が覗き込んできた。ああ、なんか、優しい人のような気がする・・・・・・。でもよく見たら目が灰色だった・・・・・・怖・・・・・・。 「な、なんとか・・・・・・」 「良かったであります。・・・・・・ほら、コンラード」 促されて、ヘンタイ外国人男性が人差し指を咥えながら俺の前に屈んだ。う・・・・・・、こっちの人はいい・・・・・・もういい・・・・・・。 「・・・・・・ちぇ、悪かったよぉ。友達になりたいんだよぉ」 ぶはっ・・・・・・ス、ストレート・・・・・・。こ、これじゃ怒るに怒れない・・・・・・。 そ、そうだな。これも文化の違いだし、・・・・・・うん。 「お、俺のほうこそ、大げさに取り乱したりしてごめん・・・・・・」 「え? ゆ、許してくれるのか?」 「許すも何も・・・・・・、こ、こっちこそよろしく。ええと」 名前ちゃんと聞いてなかった、なんて考えていると、茶髪の男性は満面の笑みを作った。 「オッス! オラ、コンラード・バニョーリ! これからヨロシクなっ!」 ちょ、なんでその挨拶の仕方・・・・・・、龍玉を集めなきゃいけない気分になる・・・・・・。 「仲直りできたようで良かったであります。あ! 申し遅れたでありますっ! あの、自分はっ、ミハイル・イヴァーナヴィッチ・アレクサンドロフと申すであります! 以後、よろしくお願いするでありますっ!!」 んでなんでこっちはこんな喋り方なんだよ! なんか変わったのが一気に二人も来た・・・・・・。 「あは、どうも・・・・・・。あ、俺はアマモト、トウイチ・・・です」 「アマモト・・・トウイチ? うーん、発音しづらいであります」 「どんな漢字なんだ?」 う、この名前笑われたことしかないんだけど。・・・・・・でも、二人とも外国人だから大丈夫かな? 「えーと、な。天の川の天≠ノ上下の下=A統べるの統≠ノ数字の一≠セ」 指でテーブルに書きながら、ゆっくりと説明する。一個一個の漢字を思い浮かべてくれればいいんだ。全部つなげるなよ、 「て、テンカトウイツ・・・・・・!!」 ぎゃーっ!! 気付いちゃったよ! 嫌っ! ミハイルのあほっ!! 「笑いたければ笑ってくれ! 泣くがな!」 コンラードは変な笑顔で俺とミハイルを交互に見ている。気付いてしまったミハイルはうつむいて肩を震わせている・・・・・・いいよもう! でも涙は見ないフリしてよね!! 「す、素晴らしいであります・・・・・・!!」 「・・・・・・え?」 ちょっ、あの、なんかいきなり手握ってきたんですけど。そして近いよ! なんでそんなに息荒いの!? 怖いよ! 「近いんだけど・・・・・・!」 「えっ、あ! す、すみませんでありますっ!!」 よ、良かった・・・・・・。ミハイルは比較的言葉が通じるほうだ。すぐに手を離して離れてくれた。それでも充分近いけど。 「あのっ、自分、日本の文化とか、風習とか、なんか、もう、いろいろ大好きなんでありますっ!!」 「わ、わかった、うん。だから落ち着いて・・・・・・」 「す、すみませんであります! そ、それで、に、日本と自分の祖国のロシアが、な、仲良し条約を締結できるよう、努力するのであります! あ、あの、日本の軍隊のことを学んで、じ、自国に日本の軍隊は悪い軍隊ではないので、仲良しのじょうっ、す、すみませっ、その、日本の軍隊とロシアの軍隊が仲良しの条約を結んで、あのっ、戦争だめな日本と平和な国を作って、あの、それでっ、ひいてはっ、ロシアと日本が仲良く・・・・・・!!」 なんかかわいそうになってきたよ!! いいよもう! 無理すんな! 「ミハイルはすっごい日本オタクだぜー」 「うん・・・・・・、なんかわかった気がする」 涙目で咳き込んでいるミハイルの背中を撫でながら、のんびりと会話する。ちょっとした和み・・・・・・。でも少し、今の日本の軍隊誤解してると思うぜ・・・・・・。 「そ、それで、今の平和な日本で、天下統一という戦士の心を忘れない名前を持った君に、か、感動したのであります! おもとっ、お友達になれてとてもすごく感激であります! あまりに嬉しくて、あのっ、いっそ結婚して欲しいのであります!!」 「落ち着けっ!?」 また極論だな!! おもしろいけどその分怖いからこいつの前ではあまり日本人らしいことをしないようにしよう! 「でもさー、と、トウイチ? んー、なんか呼びにくいな」 「・・・・・・ああ、それ日本の友達にも言われたよ。あんまり無い名前だもんなあ。みんなあだ名で呼んでたし、好きに呼んでいいぜ」 「そうかあ? じゃあ・・・・・・、うーんと、日本人っぽく・・・・・・。・・・・・・あ! トウサン!! これどうだっ!? なんかすっごい日本人の愛称っぽくないか!?」 「それはちょっとどうかと思うな! それだとお前の父親になっちまうぜ!」 危うく自分よりでかい子供を持つことになりそうだった。 「あ!! じゃあトウチャン!!」 「それも同じなんだぜ!?」 狙ったように父系統で攻めてくるな。まあ日本人友達相手でもまともなあだ名なかったけど。 「うー、じゃあなんだったらいいんだよぉ」 「あ、自分たちも日本のお友達から呼ばれていたあだ名で呼べばいいのではありませんか? どんなふうに呼ばれていたのでありますか?」 「えっ・・・・・・、いっちゃん、か、とっつぁんだけど・・・・・・。でも日本人のあだ名って普通仲良くなってから呼ぶもんだし、俺のあだ名けっこう変だから違う呼び方したほうが・・・・・・」 「そうでありますか。では、いっちゃん」 普通に呼んできたあああああっ!! でかいロシア人がすげぇ真顔で「いっちゃん」言ってきたよおおっ! トーマスがトムとかロバートがボブとかそういう感覚なのかな!? 日本人の俺的にはちょっと怖いんだぜっ!! 「す、すげええええっ!!」 「うわっ!」 今度はコンラード!? なんなんだよ! 怖いよ! いきなり大声だして人を驚かせる大会かここはっ!? 「ちょっ、すげっ!! うわ、おかあさんっ!! うわ、うわわわわっ!!」 うわあああっ、変な言葉を発しながら抱きついてきたあああっ!! やだもうこいつ! 言葉が通じてないっ! 「コンラード、落ち着くであります。いっちゃんが困っているであります」 こっちはこっちで自然に呼んでるし! ・・・・・・ううう! 「あっ、ご、ごめん! あのさっ、俺っ、日本のアニメや漫画が大好きなんだっ! 今イタリアじゃ漫画とかいろいろ流行ってるんだぜ! そんでさっ、・・・・・・生でとっつぁんって呼ばれてる人いるんだな!!」 俺の「とっつぁん」はそれではなーい!! 永久に怪盗を追い続ける熱い魂を持った刑事の愛称とは別発生だ! トウイチのトウ≠ゥらきてるんだ! 手錠を振り回したことなんてないんだぜっ!! 「と、とっつぁん! 俺のことはぜひルパ・・・・・・!!」 「さあミハイル!! 一緒に白米食べようぜ!!」 危ないコンラードは無視してごはん茶碗を手に取る。ミハイルは赤く染まった手で鼻を押さえながら「夢の日本人と日本食であります・・・・・・!」とかなんとか言いながらごはんを取りに行った。 「なあなあ、俺はさ、ちょっと遠慮して四世にしといたほうがいいか!?」 白米がうめえええええっ!! やっぱり日本の朝は白米に日本茶だな! あとは・・・・・・! 味噌汁でコンプリートなんだぜえええええっ!! |