雨乞




 憂鬱だ・・・・・・。雨降りの日は何もする気がおきない。だからといって雨音を聞きながら眠るのは嫌いだ。必ずよくない夢を見る。
「初一ーっ、外は涼しいぞーっ!」
 あ、起きていても悪夢だ。寝るか。
「ああ、初一は昼寝か。それでは今のうちにかねてから気にかけていた初一の部屋の机の鍵のかかった三段目の引き出し攻略にでも行くとするか」
「あー! よく寝た! いやはや良い目覚めだっ!」
 ・・・兄さんが目の前でにっこにっこしている。・・・・・・嫌な知恵がついたものだ。
「さてはて初一。今日は何をしようか」
「えー・・・、何もする気がおきませんね」
「そうか。では二人トランプでもするか」
「ぬるっ! そんなつまらないことはしたくありません。・・・買い物に行きたかったのに、この雨じゃあとても外出する気にはなれませんね」
「そうか。では出かけるか」
 ・・・人の話を聞いていたのかこの人はっ!? 俺は今外出しないと言ったはずなのだが。兄さんはついに人の言葉も解せないほど退化してしまったのか。
「初一、そんなおもしろい顔をするな。お前が雨嫌いなのは知っているから」
 ・・・・・・おもしろいか? 俺の顔・・・。
「つまり冗談だ。安心して好きなことをしていなさい」
 おもしろい顔・・・。俺? 俺の顔?
「初一聞いているか」
「ええ、びっくりするほど聞いていますよ。しかし・・・何をしましょうか」
 窓の外を見る。突然の雨は止む様子もなく、けたたましい音をたてて振り続けていた。
「あーめあーめふーれふーれ」
 兄さんが歌いだした。
「やーさんがー」
 やーさんがっ!? 何か身体中に勲章のある人がっ!?
「外車でおーむかーえ」
 ど、どこに誘われるんだ・・・・・・?
「嬉し恥ずかし」
 恥らいっ!? そこで恥の文化がっ?
「みーんなーでなーかよーくたーべにこーい」
 フィニッシュは豆鉄砲!? こ、この人は・・・一体どこでこんな歌を・・・。
「兄さん・・・どこでそんな歌を・・・」
「お、雨が上がった」
 馬鹿な! 兄さんのふざけた雨乞いの歌に雨雲が怒ったのか? ああ・・・雲間から太陽が。
「さ、初一。出かけるか」
 ・・・仕入れ場所を聞きそこなった。
「・・・・・・そうですね」
 そして、俺たちは両生類祭の外へ死の一歩を踏み出した・・・・・・死。





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